米国における、また世界における原油や天然ガスの掘削・生産に関連したエネルギー産業は、規模が真大であるのみならず、非常に据野の広い産業である。シェールガス革命によって改めて注目された当該産業分野であるが、据野の一つとして「水マネジメント産業」「水処理産業」を上げることができる。在来型油ガス田では、従来よりProducedWater(随伴水)処理の問題が存在した。油ガス生産に伴って地層より生じる水であり、条件にあった水処理が検討され技術も開発されていた。
一方で、よく知られる通り、近年には新たな水処理問題が発生した。米国におけるシェールガス革命は1980年代後半から使用されていた水平坑井の技術の進展と、はやり歴史の長いフラクチャリング技術の進展の賜物である。大量の水を使用する水圧破砕技術によって、従来は採掘が困難であったシェールガス等の非在来型資源の開発が可能になった。しかし、大量の水を使用するために、水の確保や、いわゆる水圧破砕(フラクチャリング)のFlowback(戻り水)の処理および最終廃棄が問題になった。戻り水にはフラクチャリング流体に含まれていた各種の化学薬品のほか、地層に含まれている成分などが含まれており、そのままでは環境に排出または再利用もできず、さらに廃棄用坑并への注入は地震を引き起こすなどの問題が発生したからである。生産開始後は、非在来型油ガス田においても在来型と同様に随伴水が発生し、長期にわたる処理が必要となる。
なぜ、温故知新か。当初はシェール「ガス」革命であったが、米国国内の需給バランスからガス価格が低迷する一方で原油価格が高値安定しているために、オイルを主目的に開発・生産する場合が増えた。それにより、水圧破砕の方法・流体成分にも変化があり、水処理方法や技術にも影響を与えている。在来型技術も見直されており、在来型油ガス田を含めて裾野を見直す契機である。
本書では、水マネジメント・水処理分野の第一人者、吉村和就先生に第1章を、随伴水処理設備の設計、施工管理業務、研究開発などのご経験のある冬室誠先生に第2章を、岡村和夫先生にはオマーンでのプロジェクトご経験に基づき第3章をご寄稿いただいた。また第4章は当該関連分野の調査経験が長い弊社吉田が執筆した。特に生産ターゲットがガスからオイルに変わった2012年以降から2014年8月現在までの技術および市場動向に注目し解説した。企業動向では、新規参入、M&Aやァライアンスが活況を呈する一方で消えていく企業もある現況を紹介する。本書が、優れた日本の水処理技術で更なる世界展開を目指されているすべての水処理関連企業や商社の皆様、新規参入を検討されている方々にとって貴重な情報源であることを確信し、購読をお勧めする。
第1章 シェールガス・オイル汚染水処理技術の動向
グローパルウオータ・ジャパン 吉村和就
1. 世界の天然ガス資源・技術的資源回収量
1.1 天然ガスの種類
1.2 シェールガス・オイル資源国
1.3 主要国のシェールガス開発・生産動向と水資源
2. 米国におけるシェールガス開発状況と法整備・関連規制の動向
2.1 水圧破砕法における水質汚染問題
2.2 全米で38件の訴訟が進行中
2.3 米国各州の取水条件
2.4 テキサス州におけるシェールガス用水資源の現状
2.5 今後の規制動向
3. 米国の水圧破砕水市場の規模と将来動向
3.1 天然ガスの価格動向
3.2 天然ガスの輸出に対する動向
3.3 水圧破砕市場の規棋と動向
4. シェールガス・オイル掘削に用いられる薬剤
4.1 シェールガス・オイル採掘の慨要
4.2 シェールガス・オイルで使用される薬剤
5. 水圧破砕法と水資源
5.1 必要とされる水資源量
5.2 水圧破砕から排出される廃液
5.3 なぜ廃液処理が難しいのか
6. 水圧破砕法の水循環
6.1 廃液処理方法
6.2 再生水としての利用可能な水質
6.3 これからの廃液処理
6.4 米国における水処理企業
さいごに
参考文献
第2章 非在来型資源・在来型油ガス田の随伴水処理技術
日本オイルエンジニアリング株式会社 冬室 誠
はじめに
1. 非在来型シェールオイル・ガスの資源とは
2. シェールオイル・ガス開発の歴史と技術開発
2.1 技術開発
2.2 インフラ環境
3. シェールオイル・ガスの採集技術(水圧破砕、水平掘削等)
3.1 採集技術
3.2 技術課題
4. 在来型・非在来型の開発に伴う汚染水・随伴水とは
4.1 随伴水の生産特性
4.2 随伴水の塩分濃度
4.3 随伴水の溶解物質
4.4 シェールガス・オイル開発時のフラクチャリング流体と戻り水
5. 開発に伴う環境問題
5.1 在来型の環境問題
5.2 シェールオイル・ガスの環境問題
6. 汚染水・随伴水の処理設備
6.1 在来型の処理設備
6.2 非在来型の汚染水・随伴水処理設備
7. まとめ
7.1 再利用の技術動向
7.2 高度処理技術
7.3 今後の技術展望
参考文献
第3章 マイクロパブJレ技術による油田随伴水処理
株式会社テクネット 岡村和夫
1. 随伴水について
1.1 随伴水とは
1.2 オマーンにおける石油随伴水の概要
1.3 石油随伴水の水質
1.4 オマーンにおける現状の随伴水処理
2. 随伴水処理に関する配解討結果
2.1 処理技術の必要性
2.2 処理装置の開発
3. パイロツトプラントの概要と連転結果
3.1 パイロツトプラントの基本的考え方
3.2 パイロツトプラントのフロー
3.3 パイロツトプラント運転結果
3.4 パイロツトプラント運転上の課題と対策
4. その他の検討事項
4.1 現地資材を用いた高性能活性炭の開発
4.2 太陽光淡水化試験
5. おわりに
参考文献
第4章 水圧破砕の水マネジメント関連技術および市場の最新動向
シーエムシー・リサーチ 吉田優香
はじめに
1. 米国におけるシェールガスおよびタイト・オイルの状況
1.1 米国におけるシェールガスおよびタイト・オイル開発の最新状況
1.2 米国における天然ガスおよび原油価格の状況
2. 技術動向
2.1 シェール油ガス田における水マネジメント(廃水処理から水マネジメントへ)
2.1.1 水マネジメントの戦略ファクター
2.1.2 水マネジメントの要因ごとの最新状況
① 水資源
② オペレーション
③ 水処理
④ 移送・輸送
⑤ 廃棄
2.1.3 水マネジメント戦略に関する考察
① ケーススタディ1:バッケンシェール(ノースダコタ州)での例
② ケーススタディ3:ワイオミング州の例
③ ケーススタディ2:モンテニーシェール(カナダ、プリティッシュコロンビア州)の例
④ モデリングの例:マーセラスシェールでの例
2.1.4 水処理技術の最新動向
① 蒸留
② 逆浸透(RO)膜による分離
③ ろ過(逆浸透膜以外)
④ その他の左法による処理(化学的処理など)
2.1.5 代表的企業の水処理技術の動向
① Fountain Quail Water Management 社 および Aqua-Pure Ventures 社
② GEPower & Water社, Water & Prooess Technologies ビジネスユニット
③ Veolia Water Solution & Technologies 社
④ Rockwater Energy Solutions 社
⑤ Basque Systems 社
⑥ Altera 社
⑦ Superior Well Service 社
⑧ Kroff社
⑨ Ozone Technologies Group 社、Kerfoot Technologies 社
および Lake Country Frac Water Specialists 社
⑩ Ecosphere Technologies 社
⑪ Process Plant Corporation (PPC) 社
⑫ Dow Chemical 社, Dow Water and Process Solutions ビジネスユニツト
⑬ Gas Technology Institue (GTI)
⑭ Siemens 社
⑮ Ha11iburton 社
2.2 フラクチャリングおよび関連技術
2.2.1 フラクチャリング技術の概要とトレンド
① 水圧破砕技術のトレンド
② 水を使用しないフラクチャリング技術のトレンド
2.2.2 フラクチャリング流体の種類および用いられる化学品の概要
2.2.3 フラクチャリング流体の最新トレンド
① FracForcus について
② フラクチャリング流体の分類
③ フラクチャリング流体システムの最新動向
2.2.4 フラクチャリングに使用される水消費量の動向
2.2.5 フラクチャリグで使用される化学品とそのトレンド
参考文献(技術)
3.市場動向
3.1 シェールガス・オイル開発関連での水マネジメント市場の現状と展望
3.1.1 市場の定義
3.1.2 水マネジメントおよび関連市場の市場規摸
3.2 業界構造と参入企業の動向
3.2.1 水処理・廃水処理ビジネスの機能分類
3.2.2 業界構造と参入企業の特徴
① E&P (Exploration and Production)企業
② 従来型オイルフィールドサービス会社
③ 専門サービス会社
④ 大手水マネジメント、廃水処理企業
⑤ 多様なその他参入企業(多角化企業や環境関連企業など)
3.2.3 市場の展望
参考文献(市場)
付録1 シェール油ガス田における水マネジメント関連業界への参入企業概要一覧
付録2 戻り水および随伴水処理に関連した米国特許情報要約一覧
付録3 代表的水圧破砕の戻り水/随伴水水質一覧
(なお、目次は一部変更になる可能性がございますので、ご了承ください)