近藤哲男 九州大学 大学院農学研究院 教授
田島健次 北海道大学 大学院工学研究院 准教授
天野良彦 信州大学 工学部 教授
水野正浩 信州大学 工学部 助教
長谷川輝明 東洋大学 生命科学部 生命科学科 准教授
坂口眞人 静岡県立大学 環境科学研究所 特任教授
西尾嘉之 京都大学 大学院農学研究科 森林科学専攻 教授
杉村和紀 京都大学 大学院農学研究科 森林科学専攻 技術補佐員
寺本好邦 岐阜大学 応用生物科学部 准教授
矢野浩之 京都大学 生存圏研究所 教授
磯貝明 東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授
能木雅也 大阪大学 産業科学研究所 准教授
古賀大尚 大阪大学 産業科学研究所 特任助教
菅沼克昭 大阪大学 産業科学研究所 教授
島﨑譲 (株)日立製作所 日立研究所 材料研究センタ 有機材料研究部 主任研究員
藤井透 同志社大学 理工学部 教授
大窪和也 同志社大学 理工学部 教授
内村浩美 愛媛大学 大学院農学研究科 紙産業特別コース 教授
北岡卓也 九州大学 大学院農学研究院 環境農学部門 准教授
小久保宏恭 信越化学工業(株) 合成技術研究所 研究部 室長
平原武彦 東レ・ファインケミカル(株) 機能部材技術開発グループ リーダー
井出正一 旭化成メディカル(株) 医療材料研究所 所長
長谷朝博 兵庫県立工業技術センター 材料・分析技術部 上席研究員
五味俊一 旭化成ケミカルズ(株) 添加剤事業部 セオラス技術開発部 主幹研究員
大本俊郎 三栄源エフ・エフ・アイ(株) 第一事業部 次長
門川淳一 鹿児島大学 大学院理工学研究科 化学生命・化学工学専攻 教授
星徹 日本大学 理工学部 助教
澤口孝志 日本大学 理工学部 教授
矢野彰一郎 日本大学 理工学部 理工学研究所 上席研究員
鮫島正浩 東京大学 大学院農学生命科学研究科 教授
吉村利夫 福岡女子大学 国際文理学部 環境科学科 教授
綿部智一 ダイセン・メンブレン・システムズ(株) 技術開発センター 研究員
八木敏幸 東洋紡(株) 総合研究所 機能膜開発研究所 リーダー
二十世紀末より二酸化炭素排出量の急激な増加などによる環境崩壊の危機が叫ばれてきており、もはや森林の二酸化炭素固定だけでは解決できません。その元凶は、つまるところ人間がかつてないほどの物質文明を享受していることにあります。人間の存在を否定できないことから、物質文明、すなわち化石資源だけに依存し、大量の二酸化炭素を排出する材料生産プロセスを変革させることが急務です。さらに、最近の原油価格の高騰により、将来を見据えた経済性の面からも、この傾向に拍車がかかってきています。消費エネルギーを考えて最近は、二酸化炭素をトータルでは増加させないという「カーボンニュートラル」の観点から、植物由来のバイオエネルギーが関心を集めています。しかし、二酸化炭素の削減という観点からは、むしろ植物が生産した二酸化炭素の固定素材を有効に長く使用することが効果的です。さらに、新たな用途に使うことで、刈り取ら炭素の吸収を必要とするからです。すなわち、経済性と環境適応の両方の観点かられたあるいは伐採されたところに芽生え始める若い植物体が成長する際に、多量の二酸化、天然素材由来の機能材料の創製は、ますます重要になってきています。
天然は、すばらしいバイオマス生産システムを我々に教授してくれており、それを模範として、化石資源からの物質生産プロセスとは全く異なる、いかに物質ならびに生産プロセスを環境と調和させるかを求める材料構築、すなわち環境調和型生物材料の生産プロセスの構築が必要となります。このようなプロセスの探索は、二酸化炭素固定した機能性材料が創製されて真価が見出されるものです。そのためにも、まず、バイオマス由来の機能性構造体の開発が重要なのです。
自然界では、形、色彩、動きなどのさまざまなパターンと、生物の営みにおける機能とが密接に関連しています。それらのパターンに学びつつ、新たなパターンをデザインすることで、自然に見られる以上の優れた材料の創製が可能となるでしょう。その自然の構造形成に学び、材料構築を次元的にデザインすること、それこそが本書の言う次元材料、すなわち1次元から3次元までのそれぞれの次元で、階層構造を有する材料です。
バイオマスの代表である天然セルロースは、分子の生合成から始まり、ナノ、マイクロ、ミリメートルサイズへと、階層的に3次元繊維構造を形成します。この天然繊維構造から、様々な処理により、改めて天然由来の豊富な同一分子(0次元)、ナノファイバー(1次元)、フィルム・シート(2次元)、プラスチックス(3次元)へと変換し、それぞれの次元で特色を発現させ,しかもそこから新たな集積による階層構造を形成させることにより、セルロースの機能材料化が可能となります。このユニークな階層構造や新たな階層構造形成に由来する機能化をこの本の主題としたいと考えております。
そこで本書では、 第1章から第7章までを次元材料としてのセルロースの基礎編とし、それらをセルロースの新機能発現、バクテリアセルロース、植物系セルロースとして最前線の知見の執筆をお願いしました。第8章以下を応用編とし、まず、現在注目されているナノファイバーを取り上げ、その後すでに実用化されている次元材料に関する最前線の研究成果の紹介をお願いしたわけです。しかし、本書の狙いである「ユニークな階層構造や新たな階層構造形成に由来する次元材料の機能化」という発想は、まだまだ発展途上にあり、私は、次元を意識した機能材料構築が、ますますこのすばらしい自然の恵みであるセルロースの新機能材料への展開につながることを祈念する次第です。
最後になりましたが、本書を監修するにあたり、シーエムシー出版の池田朋美氏に多大なるご助力をいただきました。ここに感謝いたします。
2013年6月
九州大学 大学院農学研究院 近藤哲男
【機能編―セルロースの新機能発現】
第1章 セルロースの階層構造形成と両親媒性 (近藤哲男)
1 はじめに
2 セルロース1次元構造体―繊維―
2.1 植物由来天然セルロース繊維
2.2 酢酸菌産生ナノファイバー
2.3 人造セルロース繊維―マーセル化繊維と再生繊維―
3 セルロース2次元構造体―平面―
3.1 樹木細胞壁
3.2 汎用人工フィルム
3.3 ネマティックオーダーセルロース(NOC)
3.4 セルロースハニカムフィルム
4 セルロース3次元構造体
4.1 酢酸菌産生セルロースペリクル(ナタデココ)
4.2 酢酸菌を用いる機能性セルロース3次元構造体の構築
4.2.1 マイクロビアルセルロースを用いるティッシュ・エンジニアリング
4.2.2 酢酸菌をナノビルダーとして用いる自動3次元構造構築
4.3 セルロースファイバーネットワーク構造を用いた複合材料
5 両親媒性セルロース分子とその2次元構造体デザイン
6 おわりに
【開発編―バクテリアセルロース】
第2章 バクテリアセルロースの機能発現 (近藤哲男)
1 はじめに
2 マイクロビアルセルロース(=バクテリアセルロース)の生合成
2.1 セルロース合成酵素複合体
2.2 TCの集合状態とマイクロビアルセルロースナノファイバーの形状
3 マイクロビアルセルロースナノファイバー中の結晶構造
4 マイクロビアルセルロースナノファイバーネットワーク(ペリクル)の機能発現
4.1 医療材料
4.2 酢酸菌をナノビルダーとして用いたセルロースナノファイバーの配向制御とその連続チャネルパターン化セルロース3次元構造体の構築への展開
5 水中カウンターコリジョン法によるマイクロビアルセルロースナノファイバー・ネットワーク(ペリクル)からフィブリル化シングルセルロースナノファイバー(ナノセルロース)の創製
6 おわりに
第3章 バクテリア(酢酸菌)におけるセルロース合成酵素複合体「ターミナルコンプレックス(TC)」の機能解析 (田島健次)
1 はじめに
2 バクテリアセルロース(BC)
3 セルロース合成関連遺伝子クラスター
4 AxCeSA
5 AxCeSB
6 AxCeSC
7 AxCeSD
8 セルロース合成におけるAxCeSDの機能
9 セルロース合成におけるCellulose complementing factor(CcpAx)の機能
10 まとめ
第4章 種々の細菌によるセルロース生産 (天野良彦、水野正浩)
1 はじめに
2 酢酸菌以外のセルロース生産菌
3 セルロース合成酵素の立体構造
4 微細セルロースを生産するAsaia bogorensis
【開発編―植物系セルロース】
第5章 エコ・バイオマテリアル創製のためのセルロースの機能化 (長谷川輝明)
1 はじめに
2 鍵中間体である6-アジド-6-デオキシセルロースの合成
3 Huisgen環化による多様なセルロース誘導体への展開
4 オリゴ糖の導入によるセルロース型糖鎖高分子
5 ヌクレオシドと四級アンモニウムカチオンの共導入によるSWNTs被覆材への展開
6 おわりに
第6章 セルロースブロック共重合体による新規複合材料の創製 (坂口眞人)
1 はじめに
2 セルロースの機械的破壊
2.1 機械的破壊条件
2.2 セルロースの機械的破壊により生成する化学種(セルロースメカノラジカル)と切断部位
3 セルロースブロック共重合体の合成
3.1 BC-ポリメチルメタクリレートブロック共重合体(BC-block-PMMA)の合成
3.2 MCC-ポリメチルメタクリレートブロック共重合体(MCC-block-PMMA)の合成
4 セルロースブロック共重合体によるセルロース微粒子の表面化学修飾
4.1 BC-block-PMMAによるBC微粒子表面の化学修飾
4.2 MCC-block-PMMAによるMCC微粒子固体表面の化学修飾
5 おわりに
第7章 新たなセルロース系機能繊維およびフィルムの設計開発 (西尾嘉之、杉村和紀、寺本好邦)
1 はじめに
2 溶融紡糸による機能繊維の設計開発
3 多機能ブレンドフィルムの設計開発
3.1 相溶性と分子間相互作用
3.2 分子配向と光学異方性の制御
4 おわりに
【応用編】
第8章 セルロースナノファイバー
1 セルロースナノファイバー強化による自動車用高機能化グリーン部材の研究開発 (矢野浩之)
1.1 はじめに
1.2 経済産業省地域新生コンソーシアム:2005年-2006年度
1.3 NEDO大学発事業創出実用化研究:2007年-2009年度
1.4 グリーン・サステイナブルケミカルプロセス基盤技術開発:2009年-2012年度
1.5 おわりに
2 TEMPO触媒酸化によるセルロースナノファイバーのガスバリア材料への応用 (磯貝明)
2.1 はじめに
2.2 TEMPO酸化セルロースナノファイバーの調製
2.3 TEMPO酸化セルロースナノファイバーの特性
2.4 TEMPO酸化セルロースナノファイバーフィルムのガスバリア性
2.5 おわりに
3 セルロースナノファイバーのプリンテッド・エレクトロニクスへの応用 (能木雅也、古賀大尚、菅沼克昭)
3.1 はじめに
3.2 プリンテッド・エレクトロニクスにおける紙基板の現状と課題
3.3 ナノペーパーの特徴
3.3.1 白い紙と透明な紙
3.3.2 透明性
3.3.3 機械的特性
3.4 プリンテッド・エレクトロニクスの観点から見たナノペーパーの特徴
3.5 プリンテッド・エレクトロニクスへの応用
3.5.1 金属ナノインクを印刷した高導電性ラインの開発
3.5.2 折り畳み可能な高導電性配線の開発
3.5.3 高感度ペーパーアンテナの開発
3.5.4 太陽光発電する紙
3.5.5 カーボンナノチューブ/セルロースナノファイバーインクの開発
3.6 まとめ
4 セルロースナノファイバーを用いた透明高熱伝導フィルムの作製とその諸特性 (島﨑譲)
4.1 はじめに
4.2 高熱伝導フィルムの作製
4.2.1 セルロースナノファイバーの作製
4.2.2 透明高熱伝導フィルムの作製
4.3 透明高熱伝導フィルムの特性
4.3.1 透明性
4.3.2 熱伝導性
4.3.3 弾性率・寸法安定性
4.4 おわりに
5 非木材セルロースナノファイバーコンポジットの開発 (藤井透、大窪和也)
5.1 はじめに
5.2 竹CNFコンポジットの開発
5.2.1 材料および試験方法
5.3 PLA(ポリ乳酸)の強化材としての竹CNFの可能性
5.4 間違いだらけのCNFの活用? と,炭素繊維/エポキシ複合材料の強化助材としての活用例
第9章 機能性紙
1 紙の機能性付与技術 (内村浩美)
1.1 はじめに
1.2 紙機能の進化
1.3 紙の機能性付与技術
1.4 紙の機能性付与技術の高度化
1.4.1 従来技術の更なる高度化
1.4.2 他技術との融合
1.4.3 新素材の利用
1.5 最後に
2 ペーパー触媒の開発―紙の構造が機能する新材料― (北岡卓也)
2.1 はじめに
2.2 触媒粉末のペーパー成型
2.3 ペーパー光触媒―室内・大気・水環境浄化への応用―
2.4 水素をつくる紙―燃料電池発電への応用―
2.5 金属ナノ触媒のオンペーパー合成―ものづくりへの応用―
2.6 さらなる機能開拓に向けて―ナノセルロースへの展開―
2.7 おわりに
第10章 医療・医薬品
1 医薬品製剤におけるセルロース誘導体の開発 (小久保宏恭)
1.1 はじめに
1.2 水溶性セルロース誘導体
1.2.1 セルロースの水溶性化
1.2.2 低粘度品の開発(フィルムコーティング)
1.2.3 水系フィルムコーティング技術の普及
1.3 腸溶性コーティング剤
1.3.1 エステル化による腸溶性基剤の開発
1.3.2 水系腸溶性コーティング技術の開発
1.4 水膨潤性ポリマー(崩壊剤)の開発
1.5 おわりに
2 多機能なセルローススポンジの開発 (平原武彦)
2.1 はじめに
2.2 セルローススポンジの概要
2.3 セルローススポンジの製造方法
2.4 セルローススポンジの性能
2.5 セルローススポンジの用途展開
2.6 今後の展開
3 セルロース製ウイルス除去膜 (井出正一)
3.1 プラノバとは
3.2 旭化成の銅アンモニア法再生セルロース事業
3.3 プラノバの適用分野
3.4 血漿分画製剤やバイオ医薬品の精製工程でのウイルス除去・不活化方法
3.5 プラノバの製品群
3.6 プラノバの特徴
3.7 血漿分画製剤での応用例
3.8 バイオ医薬品での応用例
3.9 プリオン除去
3.10 プラノバの特徴研究
第11章 扁平状セルロース微粒子の化粧品への応用 (長谷朝博)
1 はじめに
2 FS-CPの作製方法および形状
2.1 FS-CPの原料
2.2 FS-CPの作製および形状
3 FS-CPの化粧品(ファンデーション)への応用
3.1 ファンデーションの機能および最近の動向
3.2 FS-CPの配合によるファンデーションの使用感・機能性の向上
3.2.1 FS-CPの配合によるファンデーションの使用感の向上
3.2.2 FS-CPの配合によるファンデーションの機能性の向上
4 おわりに
第12章 食品
1 結晶セルロースおよび結晶セルロース製剤の食品への応用 (五味俊一)
1.1 結晶セルロースとは
1.2 粉体グレードについて
1.3 コロイダルグレード(結晶セルロース製剤)について
1.4 コロイダルグレードの応用
1.5 顆粒状食品への応用
1.6 おわりに
2 発酵セルロース製剤の食品への応用 大本俊郎
2.1 はじめに
2.2 発酵セルロースの基原
2.3 一次構造
2.4 発酵セルロースの主な特徴
2.5 発酵セルロース製剤の特性
2.5.1 粘性
2.5.2 レオロジー特性
2.5.3 温度依存性
2.5.4 耐塩,耐酸性
2.6 食品への応用
2.6.1 ココア飲料などへの応用
2.6.2 酸性乳飲料への応用
2.6.3 スープ類への応用
2.6.4 レトルトプリンへの応用
2.6.5 タレ・ドレッシング類への応用
2.6.6 泡状食品への期待
2.7 おわりに
第13章 エレクトロニクス
1 セルロース―イオン液体コンポジットの電解質および電導性材料への展開 (門川淳一)
1.1 はじめに
1.2 セルロースイオンゲルの形成と電解質材料への展開
1.3 セルロース/高分子イオン液体コンポジットの創製と電導性評価
1.4 おわりに
2 バクテリアセルロース有機ゲルを利用したリチウムイオン導電性材料 (星徹、澤口孝志、矢野彰一郎)
2.1 はじめに
2.2 多糖類エアロゲルとその性質
2.3 多糖類ゲル電解質のイオン導電性
2.4 ゲル電解質の力学および熱的物性
2.5 まとめ
第14章 環境・エネルギー
1 セルロース系バイオマスによる液体燃料やプラスチック原料の高効率生産システム (鮫島正浩)
1.1 はじめに
1.2 セルロース系バイオマス原料
1.3 バイオマス原料の前処理技術
1.4 前処理バイオマスの酵素糖化
1.5 おわりに
2 高吸水性セルロース樹脂の開発 (吉村利夫)
2.1 高吸水性樹脂の現状
2.2 環境調和型高吸水性樹脂の意義
2.3 環境調和型高吸水性樹脂の分子設計
2.4 セルロースエーテル系高吸水性樹脂
2.5 セルロースエステル系高吸水性樹脂
2.6 その他のセルロース系高吸水性樹脂
2.7 おわりに
3 水処理に最適なセルロース製分離膜 (綿部智一)
3.1 セルロース製分離膜
3.2 膜濾過法による浄水処理
3.3 酢酸セルロース中空糸膜の特徴
3.4 膜材質の特徴
3.5 膜構造の特徴
3.6 浄水処理分野における適用例
3.7 おわりに
4 酢酸セルロース製中空糸型逆浸透膜の特性と応用 (八木敏幸)
4.1 はじめに
4.2 逆浸透膜開発の歴史
4.3 酢酸セルロース製中空糸型逆浸透膜
4.3.1 CA製中空糸型RO膜の製膜法
4.3.2 中空糸型CTA-RO膜の特徴
4.3.3 中空糸型CTA-RO膜のモジュールとしての特徴
4.4 CTA-RO膜の応用例
4.4.1 海水淡水化
4.4.2 排水再利用への応用
4.5 まとめ