粉体は様々な産業に利用されていますが、粉体はバルクの性質に加え、大きさや形といった粒子の性質および表面の性質が複雑に絡み合って制御が非常に困難です。一方、製品に粉体を配合する場合は何らかの表面処理を行いますが、その場合にはノウハウとして伝承されることが多かったと思います。
筆者は化粧品の分野で粉体を扱いました。粉体によって共存する成分が分解したり、親水・疎水のバランスによって乳化系での粉体の挙動が異なったりすることから、実用的な観点で粉体の表面を調べました。粉体と共存する油脂の酸化や香料成分の分解などは従来余り測定されておらず、簡便な測定方法から研究をスタートさせました。その結果、粉体の「あるがままの表面」が明らかになってきました。
触媒活性の強いものは香料などを分解させ製品の劣化を促進する悪者ですが、その力を使えば表面処理を簡単にできると考えられます。「あるがままの表面」をそのまま使って表面処理を行うことは、力ずくで処理するよりずっと自然にできます。ある環状シロキサンを使うと「自己組織化」のような作用で1ナノメートル以下の薄い網目状の均一な膜ができます。この膜に覆われることで粉体の触媒活性は封鎖され、また、この方法では色も形も変えることなく粉体を疎水性にすることができます。
このナノ膜には付加することのできる基があり、そこに付加反応させることで様々なペンダント基を入れることができます。このように2段階の反応で機能性を付与できることからこの方法を機能性ナノコーティングと呼んでいます。
第Ⅰ部では粉体の基本的な性質を、第Ⅱ部では機能性ナノコーティングができるまでのあらましが書いてあります。この考え方は化粧品以外の様々な分野にも応用できると考えております。
2011年11月 福井 寛
第Ⅰ部:粉体の特徴、触媒活性と粉体への表面処理 ~基礎編~
第1章 粉体の特徴
1. 粒子の性質
1.1 粒子の大きさ
1.1.1 粒子の大きさと物性
1.1.2 粉体の作り方
1.1.3 粒度測定
1.2 粒子の光学特性
1.2.1 粉体による光の散乱
1.2.2 粉体による光の干渉
1.3 粒子の形状
1.4 粒子の密度
1.5 粒子の力学特性
2 表面の性質
2.1 幾何学的構造
2.2 表面積と細孔分布
2.3 吸着
2.4 表面官能基
2.5 電荷
2.6 濡れ
第2章 触媒活性
1. 触媒
2. 触媒反応の測定と解析
2.1 触媒反応器
2.1.1 流通式反応器(固定床,流動床)
2.1.2 回分式反応器
2.1.3 パルス型反応器
2.1.4 マイクロリアクター
2.2 反応速度の測定
2.3 触媒反応の解析
3. 触媒活性の発現機構
3.1 電子状態
3.2 幾何構造
3.3 格子欠陥
4. 固体酸・塩基
4.1 固体酸・塩基の性質
4.2 固体酸・塩基の測定法
4.2.1 指示薬法
4.2.2 ガスクロマトグラフィー法
4.2.3 昇温脱離法
4.2.4 赤外分光法
4.2.5 指示反応法
5. 酸化・還元
5.1 酸化・還元性質
5.2 酸化・還元測定法
5.2.1 酸化力測定法
5.2.2 電子スピン共鳴および吸収スペクトル法
5.2.3 酸素ガスフローDTA
6. 光触媒
第3章 表面処理の種類
1. 固相による方法
1.1 メカノケミカル処理
1.2 ナノ・ミクロン粒子複合化
2. 液相での反応
2.1 粉体への金属の被覆
2.2 粉体への金属酸化物の被覆
2.2.1 沈殿法
2.2.2 ゾル-ゲル法
2.2.3 水熱合成法
2.2.4 バイオミメティックプロセス
2.3 粉体への有機物の被覆
2.3.1 表面官能基との反応
2.3.2 カップリング剤
2.3.3 コーティング
2.4 粉体へのポリマー被覆
3. 気相による方法
3.1 プラズマ処理
3.2 PVD法による微粒子の表面改質
3.3 CVD法
3.3.1 金属被覆
3.3.2 金属酸化物および窒化物被覆
3.3.3 有機化合物
第Ⅱ部:無機粉体の触媒活性とそれを利用した機能性ナノコーティング
第1章 粉体の酸・塩基とその評価
1. イソプロピルアルコールの脱水・脱水素選択性と酸・塩基
1.1 各種粉体によるイソプロピルアルコール分解挙動
1.2 ピリジンおよび酢酸の添加効果
1.3 プロピレン生成機構
1.4 t-ブチルアルコールの分解挙動
1.5 アセトン生成機構
2. 体質顔料へのアルカリ金属添加効果
2.1 アルカリ金属添加タルク
2.2 アルカリ金属処理カオリンによるイソプロピルアルコールの脱水反応挙動
2.3 一次反応の検討
2.4 見掛けの反応速度定数の算出
2.5 見掛けの活性化エネルギーと頻度因子
第2章 粉体による油脂の酸化
1. 含水酸化クロムによる油脂の酸化
1.1 含水酸化クロムによる炭化水素の酸化試験結果
1.2 含水水酸化クロムによる炭化水素の加速酸化試験結果
1.3 分解生成物の分離および同定
2. 熱測定による粉体の油脂酸化能の評価
2.1 油脂/粉体混合物の酸素ガスフローDTA曲線
2.2 酸化防止剤添加ひまし油のBreaktime
2.3 酸化防止剤添加ひまし油のAOMテスト
2.4 BreaktimeとAOM時間との対応
2.5 ひまし油の酸化におよぼす赤色酸化鉄の効果
2.6 ひまし油の酸化におよぼす各種粉体の効果
2.7 粉体の酸・塩基性点と油脂酸化活性
第3章 粉体による香料成分の分解
1. 窒素気流中での粉体によるリナロールの分解
1.1 粉体によるリナロールとt-ブチルアルコールの分解率の比較
1.2 リナロール分解物の同定
1.3 粉体によるリナロール分解物の分布
1.4 粉体量と分解物分布
1.5 粉体によるリモネンとターピノーレンの反応
1.6 粉体によるリナロールの分解機構
2. 空気存在下での粉体によるリナロールの分解
2.1 空気存在下での粉体によるリナロールの分解
2.2 分解物a,b,cの同定
2.3 油脂の酸化との比較
第4章 粉体によるプロピレンオキサイドの反応
1. 粉体上でのプロピレンオキサイドの異性化
1.1 二酸化チタン上のピリジン吸着スペクトル
1.2 二酸化チタン上のプロピレンオキサイドの吸着スペクトル
1.3 二酸化チタンによるプロピレンオキサイドの異性化機構
1.4 二酸化チタン上でのプロピレンオキサイドの異性化機構
2. 粉体によるプロピレンオキサイドの重合
2.1 粉体上でのプロピレンオキサイドの反応
2.2 n-ヘキサン中での粉体によるプロピレンオキサイドの反応
2.3 粉体上でのプロピレンオキサイドの重合機構
第5章 粉体によるスチレンの重合
1. スチレンによる粉体の気相処理
1.1 スチレンによる粉体の気相処理
1.2 スチレン気相処理粉体の物性
1.3 粉体による液相でのスチレンの重合
1.4 粉体の触媒活性とスチレンの重合機構
第6章 粉体によるジメチルシロキサンの重合
1.CVDによる粉体へのジメチルシロキサンの処理
1.1 CVDによる粉体へのD3処理
1.2 D3処理粉体の触媒活性
1.3 D3処理粉体の表面分析
1.4 重合物の構造および重合機構
2. 粉体による環状ジメチルシロキサンの液相での重合
2.1 液相系での粉体によるD4の重合
2.2 低分子量DMSの同定
2.3 希釈系での生成物
3. 低温プラズマを用いたジメチルシロキサンの表面処理
3.1 D3によるカオリンのプラズマ処理
3.2 表面処理カオリンによるリナロールの分解
3.3 表面処理カオリンのTG-DTA結果
3.4 表面処理カオリンの赤外吸収スペクトル
3.5 熱分解ガスクロマトグラフィー
第7章 シリコーンナノコ-ティング
1. コーティング方法
2. MS-粉体表面のポリマーの構造
3. タイプⅠのPMS-粉体のキャラクタリゼーション
4. タイプⅡのキャラクタリゼーション
4.1 H-4による雲母の処理
4.2 環状シロキサンの種類による雲母の反応性の変化
4.3 雲母とシロキサン液体との反応
5. 粉体表面でナノ膜が形成される理由
6. ナノコーティングされた粉体の性質
6.1 疎水性
6.2 触媒活性封鎖
6.3 酸化抑制
第8章 シリコーンナノコーティングされた粉体の焼成
1. PMS-マグネタイトの焼成
1.1 PMS-マグネタイトの性質
1.2 PMS-マグネタイトの焼成
1.3 PMS-マグネタイトの焼成による色の変化
1.4 PMS-マグネタイトの焼成による結晶構造の変化
1.5 PMS-マグネタイトの熱分析
1.6 PMS-マグネタイトのPMS量と結晶転移
2. PMS-二酸化チタンの焼成
2.1 PMS-二酸化チタンの焼結
2.2 PMS-二酸化チタンの焼成による結晶構造の変化
2.3 PMS-二酸化チタンの焼成による表面性質の変化
2.4 PMS-二酸化チタンの焼成による触媒活性点の変化
2.5 焼成したPMS-二酸化チタンの光抗菌作用
第9章 機能性ナノコーティング
1. ペンダント基の付加
2. アルキル基の付加
2.1 粘度測定による付加反応の評価
2.2 アルキル基付加粉体の分散性
3. アルコール性水酸基の付加
4. イオン交換基の付加
第10章 機能性ナノコーティングの応用
1. 化粧品への応用
1.1 アルキル基付加粉体の応用
1.2 アルキル基付加粉体の乳化系での応用
1.3 水酸基付加粉体の応用
1.4 第四級アンモニウム塩付加粉体の応用
2. 塗料への応用
3. 高速液体クロマトグラフィー用カラム充填剤
3.1 カラム充填剤の調製法
3.2 カプセルS/S-C18の表面構造
3.3 細孔分布とポリマーの膜厚
3.4 溶出特性および理論段数
3.5 分離特性
3.6 耐アルカリ性
3.7 様々なタイプのカラム充填剤の調製
4. その他の応用
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