川上亘作 (独)物質・材料研究機構 生体機能材料ユニット 主幹研究員
橋本光紀 医薬研究開発コンサルテイング 代表取締役 (有限責任事業組合)創薬パートナーズ パートナー
宇佐見弘文 大阪工業大学大学院 知的財産研究科 教授
大渕敦司 (株)リガク X線研究所 応用技術センター
岸 證 (株)リガク X線研究所 応用技術センター
三浦圭子 (財)高輝度光科学研究センター 産業利用推進室 主幹研究員
坂田 誠 (財)高輝度光科学研究センター 利用研究促進部門 客員主席研究員
浦山憲雄 (株)日本サーマル・コンサルティング 代表取締役
米持悦生 東邦大学 薬学部 准教授
大塚 誠 武蔵野大学 薬学部・薬学研究所 教授
保地毅彦 アステラス製薬(株) 製剤研究所 主管研究員
深水啓朗 日本大学 薬学部 薬剤学研究室 専任講師
伊豆津健一 国立医薬品食品衛生研究所 薬品部 主任研究官
滝山博志 東京農工大学 大学院工学研究院 教授
外輪健一郎 徳島大学 大学院ソシオテクノサイエンス研究部 先進物質材料部門 准教授
田村 類 京都大学 大学院人間・環境学研究科 教授
岩間世界 京都大学 大学院人間・環境学研究科
高井浩希 メトラー・トレド(株) ラボラトリー・システム事業部 技術アプリケーションコンサルタント
Cheryl Doherty Pfizer Ltd. Material Sciences Worldwide Research & Development Sandwich Laboratories Principal Scientist
Neil Feeder Pfizer Ltd. Material Sciences Worldwide Research & Development Sandwich Laboratories Associate Research Fellow
Klimentina Pencheva Pfizer Ltd. Material Sciences Worldwide Research & Development Sandwich Laboratories Principal Scientist
真野高司 Pfizer Ltd. Research Formulation Worldwide Research & Development Sandwich Laboratories Associate Research Fellow
三村尚志 アステラス製薬(株) 技術本部 製剤研究所 製剤分析第一研究室 室長
福井隆広 塩野義製薬(株) CMC技術研究所 分析化学研究センター 研究員
南園拓真 エーザイ(株) エーザイ・プロダクトクリエーション・システムズ ファーマシューティカルサイエンス&テクノロジー機能ユニット 分析研究部 物性研究室
佐藤義明 エーザイ(株) エーザイ・プロダクトクリエーション・システムズ ファーマシューティカルサイエンス&テクノロジー機能ユニット 分析研究部 物性研究室
石原比呂之 エーザイ(株) エーザイ・プロダクトクリエーション・システムズ ファーマシューティカルサイエンス&テクノロジー機能ユニット 分析研究部 物性研究室
小野 誠 第一三共(株) 分析評価研究所 研究第五グループ グループ長
近年の医薬品候補化合物は,極めて高い確率で結晶多形を有する。製品発売後に新たな結晶形が出現し,もとの結晶形が生産できなくなってしまった事例も存在することから,開発化合物の結晶多形検討には慎重さが求められるが,同時に迅速さも求められることは言うまでもない。通常は最安定形が開発に用いられるが,確実に最安定形が得られているという保証は不可能である。その判断の支えとなるのは,結晶多形に関する十分な知識と,それに基づいた適切な評価結果である。
薬剤学の教科書を見れば,結晶多形は決して難しいものには見えない。結晶形が異なればX線回折パターンや融点の違いなどから判断ができ,転移温度を求める手法も確立されている。しかし実際の多形挙動がそんなに単純ではないことを,企業研究者は身をもって経験している。粉末X線回折一つ取ってみても,同じ結晶形のはずなのに回折パターンが違って見えたり,逆に同じような回折パターンなのに実は違う結晶形だったということもざらである。熱分析をすれば解釈不能のピークが多く出現し,違う評価法を試せば試すほど,結果が矛盾してますます理解不能に陥る,などということもある。結晶多形の講義をすれば,「結局のところ,手っ取り早く評価するのに一番よい方法は何ですか」と聞かれることがあるが,複雑な挙動を示す結晶多形ほど様々な視点・手法をもって評価し,総合的に判断しなければならない。
結晶多形評価は,3つの観点から行われる。一つ目は,既に手元にある原薬のキャラクタリゼーションである。粉末X線や熱分析,必要に応じて赤外分光法なども併用して,差別化を行う。次は,熱力学的安定性の判断である。手元に幾つかの結晶形が存在する場合に,どれが最安定形か,何度で転移するかといった情報を得るために,熱分析や溶解度測定などを行う。そして最後が,未知の結晶形の探索である。とくに,これまでに得られている結晶形よりも,さらに安定な結晶形がないかどうかが重要である。メガファーマでは96ウェルプレートを用いた高速スクリーニングが行われる。通常「評価」と言えば,既に手元にあるものを評価すればいい。しかし結晶多形の評価においては,存在していないものを評価しなければならないという難しさがある。
本書は結晶多形に関して,なぜ評価が必要かといった背景の解説に始まり,晶析法,評価法などを網羅したのち,最後に医薬品結晶多形の事例を幾つか紹介している。結晶多形に関する書籍は多く出版されているが,医薬品に特化したものは多くない。多形挙動のパターンは千差万別であり,多くの事例を知らずして適切な判断は難しいため,本書では可能な限り新鮮な事例を集めた。結晶多形が開発のNoGoの理由となることはまず考えられないが,開発を遅延させる原因にはなり得る。本書が迅速な医薬品開発の一助となれば幸いである。
第1章 結晶多形評価の背景
1.医薬品開発における結晶多形評価の重要性 川上亘作
1.1 はじめに
1.2 各開発段階における結晶多形
1.3 結晶多形の熱力学
1.4 結晶多形の転移温度
1.4.1 DSC上の転移温度と熱力学的転移温度の違い
1.4.2 溶解度測定による転移温度の決定
1.4.3 DSC測定による転移温度の決定
1.4.4 溶媒媒介転移による転移温度の決定
1.5 結晶多形の原薬物性への影響
1.5.1 外観・形状への影響
1.5.2 溶解度への影響
1.5.3 化学安定性への影響
1.5.4 表面エネルギー・吸湿性への影響
1.5.5 分光学的性質への影響
1.5.6 熱物性への影響
1.5.7 その他
1.6 おわりに
2.結晶多形に関するレギュレーション 橋本光紀
2.1 はじめに
2.2 結晶多形とは
2.2.1 結晶化の問題点
2.2.2 結晶多形 Polymorphism
2.2.3 結晶多形の要因
2.3 結晶多形の取り扱い
2.4 おわりに
3.結晶多形の特許戦略 宇佐見弘文
3.1 はじめに
3.2 結晶多形の権利化の動向
3.2.1 最近の判決
3.2.2 従来の判決
3.2.3 結晶多形に対する特許性の判断
3.3 結晶多形の特許性主張の留意点
3.4 おわりに
第2章 結晶多形の評価法
1.粉末X線回折 大渕敦司,岸 證
1.1 粉末X線回折法による結晶多形の評価
1.2 結晶化度の理論解析
1.2.1 多重ピーク分離法による結晶化度解析
1.2.2 Vonk法による結晶化度解析
1.2.3 Rietveld法による非晶質相の定量分析
1.3 最近の装置の進歩
1.3.1 平行ビーム法光学系で角度精度を上げる
1.3.2 キャピラリ回転法で配向を除去した測定を行う
1.3.3 微小部光学系によって錠剤のマッピング測定が可能に
1.3.4 集光ビーム光学系で高分解能角度測定が可能に
1.4 X線回折-示差走査熱量計同時測定
1.4.1 装置の概要
1.4.2 XRD-DSC同時測定の事例
2.放射光利用による結晶多形解析 三浦圭子,坂田 誠
2.1 はじめに
2.2 放射光およびビームラインの特徴
2.2.1 粉末回折装置
2.3 放射光測定データの解析について
2.3.1 SDPDの有効性
2.3.2 その他,放射光を用いた結晶多形解析の例
2.4 X線損傷について
2.5 おわりに
3.熱分析による評価 川上亘作
3.1 はじめに
3.2 多形転移の熱分析
3.3 非晶質の熱分析
3.4 おわりに
4.局所熱分析と赤外分光分析 浦山憲雄
4.1 はじめに
4.2 測定原理と装置
4.2.1 ナノスケール熱分析(Nano-TA)
4.2.2 ナノスケール赤外分光分析(nanoIR)
4.3 応用
4.3.1 アモルファスと結晶分析
4.3.2 混合物分析
4.3.3 nanoIR分析
4.4 まとめ
5.分光学的手法による評価 米持悦生
5.1 はじめに
5.2 赤外・ラマン分光法の原理と特徴
5.3 結晶多形の種々の分光法による評価
5.4 種々のスペクトルによる結晶多形の判別
5.5 結晶多形の転移過程の各種スペクトル測定による評価
5.6 おわりに
6.溶媒媒介転移 川上亘作
6.1 はじめに
6.2 溶媒媒介転移に対する影響因子
6.3 結晶安定性評価への利用
6.4 溶媒媒介転移と熱分析の併用
6.5 おわりに
7.製剤処方中における原薬結晶形の評価 大塚 誠
7.1 はじめに
7.2 原末製造工程における結晶多形含有量の制御
7.3 結晶多形含有量評価のための標準試料調製法とその含量の再現性とその精度
7.4 粉末X線回折法による原末結晶性の非破壊・非接触評価
7.5 96ウェルマイクロプレートを用いた微量医薬品原薬の近赤外法による疑似結晶多形転移の評価
7.6 医薬品顆粒製造工程における結晶多形転移の影響
7.7 錠剤圧縮成形工程における原末医薬品結晶化度への影響
7.8 NIR法による製剤処方中の原末結晶の結晶化度の非破壊・非接触評価
7.9 NIR法を用いた二層錠の結晶多形含有量の評価
7.10 クレアチン錠剤の吸湿・脱水挙動が製剤特性変化に与える影響
7.11 おわりに
第3章 結晶多形の関連技術
1.水和物と塩 川上亘作
1.1 はじめに
1.2 高湿度環境下における水和物の形成
1.3 含水溶媒中における水和物の形成
1.4 水和に対する製剤添加物の影響
1.5 pKa
1.6 塩の形成
1.7 塩による微視的pHの変化
1.8 塩の選択
1.9 おわりに
2.非晶質 保地毅彦
2.1 はじめに
2.2 非晶質の基本的性質
2.3 非晶質の医薬品製剤への利用例―溶解性改善
2.4 非晶質の医薬品製剤への利用例―圧縮成形性改善
2.5 非晶質の物性評価
2.6 おわりに
3.医薬品開発におけるCocrystal(共結晶)の基礎と応用 深水啓朗
3.1 はじめに
3.2 Cocrystalの定義
3.3 Cocrystalのスクリーニングおよび調製法
3.3.1 クリスタルエンジニアリングによるCocrystalの設計
3.3.2 Cocrystalの探索スクリーニング
3.3.3 実生産スケールを志向したCocrystalの製造
3.4 Cocrystalの製剤学的応用
3.4.1 溶解性の改善と評価
3.4.2 生物学的利用能の向上
3.4.3 安定性や吸湿性の改善
3.4.4 粉体(打錠)特性の改良
3.5 おわりに
4.凍結乾燥製剤における結晶多形 伊豆津健一
4.1 はじめに
4.2 凍結乾燥製剤の結晶多形と機能
4.3 水溶液の凍結による結晶多形の形成
4.4 乾燥と保存による多形の変化
4.5 結晶化度および多形の評価法
4.6 水以外の溶媒を用いた凍結乾燥
4.7 凍結乾燥による主薬の結晶多形
4.8 添加剤の結晶性と結晶多形
4.9 おわりに
第4章 原薬製造のプロセス設計と晶析の科学
1.晶析操作の基礎 滝山博志
1.1 はじめに
1.1.1 有機合成との接点
1.1.2 ラボ実験と実機操作との違い
1.2 晶析現象の理解
1.2.1 固液平衡と結晶化推進力
1.2.2 核化・成長速度
1.3 結晶品質制御
1.3.1 結晶純度改善
1.3.2 結晶形態制御
1.3.3 結晶多形制御
1.3.4 粒径分布改善
1.4 結晶製造の操作設計
1.4.1 回分冷却晶析
1.4.2 非(貧)溶媒添加晶析
1.5 おわりに
2.晶析過程のシミュレーション 外輪健一郎
2.1 シミュレーションの課題と現状
2.2 結晶粒径分布の表現
2.3 析出過程の表現
2.4 装置モデルとポピュレーションバランス式
2.5 ポピュレーションバランス式の性質と数値解法
2.6 おわりに
3.晶析による光学分割の進歩・最近の話題―医薬品とアミノ酸の事例を中心として 田村 類,岩間世界
3.1 はじめに
3.2 結晶性のラセミ体の特徴と光学分割法
3.3 Dutch resolution 法
3.4 ラセミ混合物の粉砕を伴う脱ラセミ化+優先晶出法
3.5 優先富化現象の特徴
3.6 優先富化現象のメカニズムと必要条件
3.7 アミノ酸への適用
3.8 おわりに
4.インラインセンサーを用いた晶析工程の理解,最適化,制御 高井浩希
4.1 はじめに
4.2 何が晶析工程を複雑にするのか
4.3 晶析スケールアップ技術で世界をリードするメトラー・トレド
4.4 装置概要
4.4.1 収束ビーム反射測定(FBRM)
4.4.2 粒子画像測定装置(PVM)
4.5 インライン測定事例
4.5.1 ろ過性とCLD
4.5.2 プロセスの問題点を特定
4.5.3 スケールダウン実験例
4.5.4 製造現場におけるスループットと収率の向上
4.6 おわりに
第5章 結晶多形のケーススタディ
1.構造モデリングツールおよび分子モデリングツールの応用例―結晶多形にまつわるリスクの最小化のために Cheryl Doherty,Neil Feeder,Klimentina Pencheva,真野高司
1.1 はじめに
1.2 本事例の説明
1.3 配座多形解析による検討
1.4 実験による結晶多形スクリーニング実験
1.5 結晶多形スクリーニングの結果についての詳細な考察
1.5.1 構造の比較
1.5.2 分子動力学(MD)法による溶液化学の考察
1.5.3 溶質-溶媒相互作用
1.6 おわりに
1.非化学量論的な水和状態をとるFK041およびセファゾリンナトリウム結晶の水和特性および化学的安定性 三村尚志
2.1 はじめに
2.2 FK041水和物における水和特性
2.3 セファゾリンナトリウム5水和物における水和特性
2.4 FK041水和物およびセファゾリンナトリウム5水和物における水和量と
化学的安定性の関係
2.5 おわりに
3.原薬結晶の多形転移速度に及ぼす添加剤の影響 福井隆広
3.1 はじめに
3.2 モデル薬物の結晶多形
3.3 各結晶形に特有のX線回折ピークの選定
3.4 賦形剤中での定量性の評価
3.5 3水和物から1水和物への転移速度の検討
3.6 おわりに
4.アデノシン受容体拮抗剤E3210の結晶多形評価 南園拓真,佐藤義明,石原比呂之
4.1 はじめに
4.2 E3210
4.3 結晶多形の調製
4.4 結晶多形のキャラクタリゼーション
4.4.1 PXRD測定
4.4.2 DSC測定
4.4.3 温度制御PXRD測定
4.4.4 各多形の吸湿性評価
4.5 結晶多形間の相関図
4.6 おわりに
5.DK-507kの結晶多形 小野 誠
5.1 はじめに
5.2 キャラクタリゼーション
5.2.1 擬似多形の調製法
5.2.2 擬似多形の同定
5.3 結晶転移挙動
5.3.1 湿度による転移
5.3.2 乾燥による転移
5.4 1水和物の晶析条件
5.5 おわりに
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