半導体,液晶デバイスは,リソグラフィー工程を複数回繰り返すことで製造される。半導体デバイスでは,リソグラフィー工程を30回程度繰り返すといわれる。デバイスの種類によって,工程の種類や繰り返し回数は異なるし,必要とされるパターンサイズも異なる。概ねいえることは,この数十回の繰り返し工程中で,最先端の微細パターンが必要とされるのは,ゲート工程などわずかであり,大部分は線幅の太いパターンが使用されることである。この太いパターンにノボラックレジストが使用されているのである。もちろんデバイスによっては,ここにKrF(248 nm)用化学増幅型レジストが使用される場合もある。これはまさしく,百貨店がフロアー毎に通路の幅が異なるのと同じであるといえる。1Fの化粧品売り場と地下の総菜売り場で通路の幅が異なるのはご存じのとおりである。もちろん経営母体が異なれば,それぞれの百貨店によっても通路の幅が異なる。これはまさしく,デバイスの種類によってパターンサイズが異なることに該当する。
よって,半導体デバイスにおいて,線幅の太い工程は,すべてではないにしろいまだにノボラックレジストは使用されており,しかも結構な量が使用されている。
また,中国等の新興国における半導体デバイス製造では,旧世代のデバイスを製造しており,当然ここではノボラックレジストが使用されている。
さらに液晶製造では,すべての工程(5工程)でノボラックレジストが使用されている。工程数についてはハーフトーンマスクの使用により4工程のデバイスメーカもあるようである。高感度・高解像のレジストである化学増幅型レジストの導入も検討もされているようであるが,基板サイズが半導体に比較しけた違いに大きく,使用環境の制御が難しいため実用化には至っていないと聞いている。
半導体,液晶デバイスの製造におけるノボラックレジストの使用についてまとめると以下となる。
1. 半導体デバイスにおいて,線幅の太い工程にはいまだにノボラックレジストが使用されており,結構な使用量である。
2. 中国等の新興国における半導体デバイス製造では,ノボラックレジストが使用されている。
3. 液晶製造では,すべての工程でノボラックレジストが使用されている。
次に,ノボラックレジストの化学構造の観点から,本書籍を出版した理由を述べたい。
ノボラックレジストは,ノボラック系フェノール樹脂と感光剤であるジアゾナフトキノン誘導体の混合物である。ノボラック樹脂は,元々アルカリ水溶液である現像液に可溶である。親油性のPACはノボラック樹脂がアルカリ水溶液に溶解するのを混合することで抑制する。このPACは露光されると,アルカリに可溶のインデンカルボン酸になる。その結果,露光部はPACが溶解促進剤に変化するとともに,ノボラック樹脂が本来のアルカリ可溶になり,ポジ型レジストとして機能する。
この時面白いのはPACがノボラック樹脂に混合されるだけで溶解が抑制される点である。一般には,ノボラック樹脂のOH基に対するPACのインターラクションが原因といわれている。露光時にはこのインターラクションが消失する。しかしながら,いまだにどの部位における分子間力までかは解明されていない。しかしながら,溶解速度比(露光部の溶解速度/未露光部の溶解速度)が非常に大きく,優れた性能のレジストであることは間違いない。
以前,レジストで著名な先生とPACのノボラック樹脂への溶解抑止効果は開発当初から意図していたものかという話をしたが,答えはNoであった。いまだにPACの溶解抑止効果が完全に解明されておらず,この点もさらに研究する必要があると感じていた。
今回,レジストの製造メーカ,レジストを用いる企業,レジストを分析・評価する企業,アカデミアでレジストを研究してきたメンバーが集まり,本出版に至った。このような出版物としては珍しく,企画会議を数回行い構想を練った。古くて新しいノボラックレジストに関して,ノボラックレジスト関係者に少しでも寄与する出版物になっていれば本望である。(第1章 はじめに / 堀邊 英夫 より抜粋)